【報告】新春シンポジウム「臨床宗教師の現在と近未来」
2026.01.19
2026年1月14日(水)17:00より本学大宮学舎本館2階講堂において新春シンポジウム「臨床宗教師の現在と近未来」が開催された。

鍋島・森田本学教授による開幕挨拶および実践真宗学研究科臨床宗教師・スピリチュアルケア師・臨床傾聴士プログラムの紹介がなされたのち、谷山洋三東北大学文学研究科教授による基調講演がおこなわれた。
2012年度に「東北大学実践宗教学寄附講座」の開講より開始された臨床宗教師(チャプレン)養成は年々に拡大しており、現在では本学実践真宗学研究科を含むさまざまな大学や付置機関にて受講することが可能となっている。そして、その臨床宗教師を受け入れる場所も全国的に広がっており、臨床宗教師がさまざまな医療・福祉施設などで評価され、受け容れられてきていることが看取できる。
臨床宗教師やスピリチュアルケア師など、さまざまな心のケアの資格・職種があるが、それは場所・人に応じて宗教性を出すか出さないか、臨機応変に対応していく必要があることにも起因される。
谷山氏は、心のケアの提供には(A)狭義のスピリチュアルケア、(B)狭義の宗教的ケア、(C)宗教的資源の活用、の三種があるとした上で、スピリチュアルケア師・臨床傾聴士は(A)がケアの主体であるが場合によっては(C)にも跨がる活動であるという。スピリチュアルケア師・臨床傾聴士は宗教や信仰に依拠せずに活動を行うが、患者の要望などによっては神社や寺院などの宗教施設や媒体を利用することも妨げられない。

一方で、宗教者として心のケアを提供する臨床宗教師は(A)、(C)にわたってケアを行うものであると定義できるが、自身の信仰を押しつけたり宗教勧誘を行うことはないため(B)に抵触することはない。(B)を伴うケアは飽くまでも「宗教者」の領域である。ただし、「宗教者」が必ずしも「スピリチュアルケア」に精通もしくはそれに準じた活動を行っているわけではないことも留意すべきである。
チャプレンたちの活動は広範囲にあたるが、その「あるべき姿」は何であろうか。それを追求し、(1)活動分野を拡大していくことが求められるであろう。それを踏まえて(2)理想的な教育プログラムの開発も喫緊の課題である。加えて、(3)研究の推進さらに言えば分野横断的な説得力を保持するための「エビデンス」の構築が必要である。
さて、(1)「活動分野」について考えるためには、それぞれの職業の特徴を知る必要がある。臨床宗教師の特徴が組織力である。もともと九州の地域組織から始まり、全国に拡大してきた経緯を持ち、自ずとさまざまな団体が形成されており、組織性が非常に強い。また、宗教者には普段から話すことに慣れている者が多く、発信力が高いことも特徴である。
一方でスピリチュアルケア師は組織性は弱く、臨床傾聴士はまだ組織はないという。換言すれば、活動は個々の有資格者に一任されているというのが現状である。
そして(2)理想的な教育プログラムの開発も課題である。すでに欧米ではチャプレンの育成プログラムがなされているが、日本式の社会に準じたプログラムについてはまだまだ十全ではない。スピリチュアルケアは「形のないケア」であるためスキルよりメタスキル(態度)が問われる。したがって教育方法にも「型」がなく、感情や態度で相手が話しやすい空間を作る必要がある。世の中も常に変化し続けており、ケアには個別性が高く研究の蓄積もいまだに充足しているとはいえない。そのため教育方法のシステム化は必要であり、加えて社会変化に準じて常にアップデートされる必要がある。教育プログラムの充足化を図るためにはSV(指導者)の養成も必要である。ただし「指導する立場」の養成は容易ではなく、時間も要する。
また(3)先述のようにエビデンスに基づき、宗教的ケアの効果を実証する必要がある。近年の研究成果では読経を聴取することによって悲嘆ストレスが軽減されることが判明しているが、まだまだ詳細に不審の点は多い。たとえば昨今、葬送儀礼が簡略化されているが、悲嘆ケアの観点からすれば葬儀は従来のままのかたちで執り行うべきといえるのである。

これらの課題を指摘しつつ、臨床宗教師の目指すべき方向性の共有がなされ講演は締めくくられた。
基調講演ののち、森田氏が聞き手となり、当養成教育プログラム修了生の2名(森谷氏・藤田氏)による振り返りがおこなわれた。
森谷氏はあそかビハーラの研修が心にのこったという。言葉・テキストで学ぶだけではわからない、経験を通したケアの難しさを実感することができた。そして、他者だけでなく、自分自身を見つめることの重要性を実習を通して痛感したと振り返った。藤田氏も同じくあそかでの研修において、「自分自身の心が外に出ていない」と言われたことが印象に残ったという。今までに指摘をされたことがなく、ケアの難しさや今までにない視点に気づくことができたと回顧された。
最後に、谷山氏によるアドバイザーコメントがおこなわれた。

リビングヒューマンドキュメントすなわち「生きている人から学ぶ」ことが本プログラムである。これは亡くなったご遺体と向き合っていく「葬儀仏教」とは真逆の学び方である。その学びは臨床宗教師だけの場面だけではなく社会での人間関係や寺院での門信徒とのふれあいの中にも活きるものである。谷山氏は最後に「自分自身の課題は何かと見つめる時間、課題に向き合う時間」を月に一度は創出し、実践してほしいと述べ本シンポジウムは締めくくられた。
