【報告】特別講演「実践真宗学の最前線―親鸞と世界―」
2025.07.15
2025年7月2日(水)11:00より大宮学舎東黌101教室において特別講演「実践真宗学の最前線―親鸞と世界―」が開催された。本講演では長岡阿衣璃氏(実践真宗学研究科3年・ハワイにおける国際伝道研究生)・長尾菜摘氏(実践真宗学研究科3年・臨床宗教師研修生)によって、本学実践真宗学研究科で実施された学外実習の報告がおこなわれた。
長岡阿衣璃氏は、「Hawaiiにおける真宗伝道の実践」と題して、2023年9月に実践真宗研究科と文学研究科真宗学専攻が合同でおこなったハワイ研修について報告した。
ハワイにおける浄土真宗本願寺派の伝道は、1889(明治22)年の曜田蒼龍(KAGAI Soryu)による伝道にはじまり、1897(明治30)年には西本願寺から正式な開教使が派遣されるにいたり、現在ハワイ教団は寺院32、僧侶38名、メンバー(門徒)4000名によって活動がおこなわれているという。

長岡氏が紹介した現地の実践活動の概略は以下のとおりである。
“ Project dana”はdana、すなわち布施の精神をもとに、高齢者や障がい者を支援するための活動として開始された。“chaplain”はいわゆる臨床宗教師で、宗教的事柄のほか、主に病院などの施設でケアをおこなう僧侶である。“polis chaplain”は、警察官と共に行動する僧侶であり、警察官と同じ制服を身につけて活動する。被害者の話しに耳を傾けるほかに、時には警察官のケアもおこなう。また、ハワイで事故にあった被害者の日本の家族に事件を伝えることもあるという。
つぎにメンバー(門徒)の日々の様子が紹介された。
ホノルルの慈光園本願寺(Jikoen Hongwanji)で開催されるバザーでは、寺院のルーツが沖縄にあることに関連して、メンバーによってサーターアンダギーが作られ、販売される。そのバザーの売り上げの一部は寺院に寄付されることから、長岡氏は寺院が地域に根付き、文化継承の場になっていることを学んだと述べる。日本にルーツをもつメンバーにとって、寺は日本に立ち返る場であり、盆踊り(現地では“Bon dance”)も日系移民と子孫によって継承され、開催されているという。
そのほか、ハワイ研修では、ホノルルのハワイ別院が経営する私立の教育機関“Pacific Buddhist Academy (通称PBA) ”の見学や、2023年8月8日に発生したマウイ島の山火事によって被災した“Lahaina Hongwangi”の見学がおこなわれた。
なお、昨年度はアメリカのロサンゼルス・サンフランシスコで研修がおこなわれ、現地で活躍する開教使の想いや日々の葛藤をうかがったという。現地のメンバーとの交流もなされ、北米の日系人のルーツや、アジア・太平洋戦争中の日系人差別について学ぶ施設の見学もおこなわれた。
また、アメリカの寺院は日本とは外観が異なり、本堂にも椅子が設置されているが、内陣は日本と変わらないことが説明された。日曜学校には子どもたちが集まり、他国でも浄土真宗の教えが伝わっていることを実感することができたという。
さいごに長岡氏から、本学実践真宗学研究科は、現代社会を取り巻く課題に実践的・具体的に対応し得る宗教者のあり方について、学年を超えて学び合うことが出来る場であると述べられた。
つづいて、長尾菜摘氏によって「臨床宗教師とは」と題して、実践真宗学研究科の「臨床宗教師・臨床傾聴士」養成教育プログラム受講について報告がおこなわれた。

長尾氏は、まず、「傾聴」することの難しさについて会場に投げかけた。
傾聴とは、人の話しに対して「その人の立場になって理解(共感)する姿勢」である。傾聴は日常でも重要なコミュニケーションであるが、決して容易なことではなく、臨床宗教師が苦悩を抱える人々に寄り添う上でも、重要な姿勢であるという。
臨床宗教師とは、医療現場や被災地の仮設住宅、福祉施設などの利用者の苦悩に対してケアをおこなう宗教者である。その活動の特徴として「公共施設で活動をおこなう」「布教・勧誘を目的としない」「他宗教者との連携」「患者の宗教、価値観を尊重」「多職種連携」などが挙げられる。
長尾氏は以上の傾聴する姿勢の難しさをふまえて、実践真宗学研究科における現地実習の紹介をおこなった。
東北研修は「東日本大震災の悲しみの現場に立ち、ひとびとの悲しみに学ぶ」ことを目的におこなわれた。震災の発生から今年で14年が経過したが、被災地の研修では震災当時の痕跡が悲しみとしてひとびとの心に様々な形で残りつづけていることが理解できたと述べられた。
広島研修では、「被爆寺院の歴史を聞き学ぶとともに、遺族の方の悲しみに触れる」ことを目的に、原爆投下後の広島にとって、寺院が被災地の拠り所になっていたことが報告された。
臨床宗教師実習は、終末期医療行為をおこなうあそかビハーラ病院(京都府)において実施されている。実習の目的について長尾氏は、「実習生それぞれで異なるものではないか」と述べ、その上で長尾氏自身は「常在する臨床宗教師と行動して医療従事者と協働するなかで見えてくる病院内での宗教者の役割を学び、死を前にする患者の苦しみに寄り添いながら、自身の死生観をお育ていただく」ものであるという。
あそかビハーラ病院では、カンファレンス(医療従事者が患者の様態を共有する場)に臨床宗教師が参加し、患者の変化や言葉を医療従事者に伝える。臨床宗教師は医療従事者と患者、患者の家族などとの仲介役を担うことで、患者の心の負担軽減や負担となりえる問題を解決し、患者の人生の楽しみを手助けする役割がある。長尾氏は、臨床宗教師の役割は、患者の声に傾聴することで可能になると述べる。
両氏の報告後、鍋島直樹本学教授からのコメントで、過去に鍋島教授自身が以下のような言葉を投げかけられたという。
「チャプレンとは不完全な伴走者であり、完全でなくてよい、自分自身も悩みを抱えながら相手に伴走し、相手の想いにも寄り添い、自身も阿弥陀様に寄り添ってもらい、自分自身も大切にするように」
この言葉には、不完全でありながらも相手の想いを拾い上げることの大切さが含まれている。
さいごに、長岡・長尾両氏から会場へ言葉が投げかけられた。
長岡氏は、自身は実践真宗学研究科において、真宗保育の実践についての研究をおこなっており、本研究科は自分なりのテーマを真宗学につなげてデザインすることが特徴であり、強みである、と述べた。
長尾氏からは、本学実践真宗研究科と社会学部の共同出展したLGBTQ+の啓発イベント「Tokyo Pride 2025」に参加した経験が語られた。長尾氏自身の研究テーマがLGBTQ+に関するものであることから、イベント参加によってLGBTQ+に関心のある方や、無関心の方が存在することを実感したことで、「様々な価値観があることへの理解を育ませてもらった」と述べて、本学でおこなわれた実習が、自身の研究に寄与したことが語られた。

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