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【報告】グリーフケア講座「傾聴のコツ:話を「否定せず、遮らず、拒まず」」

2024.07.12

 2024年7月9日(火)15:15より、本学大宮学舎西黌2階大会議室において、グリーフケア講座「傾聴のコツ:話を「否定せず、遮らず、拒まず」」が開催された。講師はカフェデモンク主宰である金田諦應氏がつとめられた。

 カフェデモンクは、東日本大震災における復興支援の最中に生まれる。国境なき医師団が撤退しようとしているときだった、人々は帰らないでほしいと必死に引き留めていた。その時、金田氏は、「僧侶はここまで必要とされているだろうか」と感じ、「僧侶」が被災地を巡回しながら人びとの「文句」を聴くカフェ「カフェデモンク」を始める着想を得た。

講座の風景

 石巻市・気仙沼市・南三陸町がカフェデモンクの主な活動地域であった。実は、震災の犠牲者の3分の2が南三陸町であったことを後に知ることになる。カフェにはスピリチュアルペインに関する問い「何故私だけが助かったのか」「助けることができなかった私はどうすればいいのか」が飛び交った。答えが見つからない問いに、当初は金田氏も逃げ出したくなったという。しかし、答えを用意するのではなく、答えが落ちるのを待つのが傾聴のコツであり、「人は必ず立ち上がれる(レジリエンス)」と金田氏は述べられる。経験談として2歳の息子を震災で亡くし、スピリチュアルの悲しみに苦しんでいた母親からの問いについて話された。

金田諦應氏

 母親は金田氏に「息子はどこにいるの?」と問う。長い沈黙のあと金田氏は「どこにいて欲しい」とたずねる。再び長い沈黙のあと、「光があふれ、お花が沢山咲いている場所」と答えた。この会話が交わされる間は、実に1時間であったという。「沈黙」を待つことも傾聴活動では大切であるという。それは、こちらから答えを用意しないことが傾聴であるからである。そして2年後に再会した際、母親は「与えられた命を、大切に生きる」、6年後には「私の経験を語りたい」と言うようになっていったという。傾聴を続けることで少しずつではあるが、母親は立ち上がっていっている(レジリエンス)という。すなわち人は話を聴いてもらうことで、心が和らぐ・安心感が得られるのである。「聴く」ということを深めていかなければならない。ただし、相手が話しはじめるまでじっと待つ根気強さも必要である。

司会の鍋島直樹本学教授

 また、傾聴とはナラティブアプローチ、すなわち相手の語る物語を全て受け入れ共感することだという。ゆえに傾聴は善悪の価値判断をしたり、自分の価値観(信仰)から話すのでもなく、無条件に相手の物語を受け入れる事が大切である。例えば自殺念慮を抱く男性に「地獄に落ちる」や「極楽に生まれる」などの一般的価値観を伝えることはあまり意味がなく、自殺希念に至る心の道筋に慈悲(愛)をもって向き合い、共感し、共に歩んでゆく姿勢が大切であると金田氏は自身の経験則を通して述べられた。

 また、傾聴には場をほぐす力も必要(遊び心・無防備・自己距離化)と金田氏はいう。その意味で臨床宗教師は「ケアアーティスト」と称してもいいという。それは傾聴を通してモノクロームの世界に色付ける存在であるという自身の気づきに基づくという。厳しい場所であるからこそ場を彩るユーモアが必要なのである。そこにはケアする側、される側が互いに響きあう色即是空の世界が広がると金田氏は振り返る。

 以上にように、「傾聴」を行う際には、相手の言葉や言葉の裏側に潜む感情に共感すること、自身の価値観からの答えを提示しないこと、相手から言葉が自然に落ちてくるのをじっと待ち、程よい距離と熱量で相手の語りを聴き続け、苦しみに向き合い続ける姿勢が大切であると総括し、講座は結ばれた。

    記念写真

(文責:PD西村慶哉)