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【報告】特別講義「地域に開かれた寺院」

2024.06.17

2024年6月11日(火)15:15〜16:45、大宮学舎北黌105教室において、本学非常勤講師である柱本惇氏を招聘し、特別講義「開かれた寺院」を開催した。講師である柱本氏は、浄土真宗本願寺派明覺寺の住職を務めながら、地域に根ざした寺院の在り方を追求している。今講義では、柱本氏が自坊でおこなっているさまざまな取り組みにを例示しつつ、これからの寺院の在り方について考える場となった。以下に要点を述べる。

柱本惇氏と鍋島直樹本学教授

高齢化社会や貧困化、単独世帯の増加や地縁・血縁の希薄化に起因する社会の無縁化など、現代日本にはさまざまな問題が散在している。京都市の寺院で生まれ育った柱本氏は寺院を運営する中で、このような現状に危機感を抱き、地域社会に寺院が貢献できることは何かを模索することとなった。

そして明覺寺では現在、コワーキングスペースやヨガ、野菜市など、さまざまな催し物を境内地や堂内で実施し、門信徒・老若男女を問わず、さまざまな人が集まる場所として機能しているのである。では、このようなさまざまな取り組みを行うためにはどのような点に注意すべきであろうか。柱本氏は以下の(1)〜(4)が重要であるという。

(1)自身が預かる寺院はどのような寺院かを知る

「何かしなければ」というのは頭で分かっていても「何をすべきか分からない」という事例は多いのではないだろうか。柱本氏はまず行動に移る前に、自身が預かる寺院はどのような寺院であるかを知るところから始めるべきであるという。柱本氏が奉職する明覺寺を例示すると、当寺は1490年開基で柱本氏で21代目である。西本願寺の元塔頭寺院としての歴史を持つことから歴代住職も本願寺との関係性も深く、寺院も2022年には登録有形文化財に登録されている。このように寺院の歴史を知ることが、以下の(2)〜(4)にも接続されていく。

(2)地域性、環境、門信徒との関係性などを分析し、長所・短所を見つめ直す。

次にその寺院の長所と短所を導く。柱本氏は明覺寺をとりまく環境を分析し、「京都駅近くの立地」「近隣寺院がすべて本願寺派」「門信徒は遠方が多く相互の関係性は密接ではない」「駐車場がなく境内地も狭い」という長所・短所のあることを導き出したという。

(3)寺院の強み(セールスポイント)は何か

上記の結果をもって次に、自身の寺院の持つ強みについて考える。(1)(2)より「歴史と立地」「本願寺に対する親しみ」といった強みを導き出すことができる。さらに、自身の持つ考えや能力を勘案すると、「寺族の顔が見える」「何でもできる」ということも強みに加えることができたと柱本氏は述べる。

(4)どのような寺院の在り方を理想とするか

寺院を分析し行動に移しても、その活動を継続していくことは困難を極める。そこにはやはり、活動を行うことに対する理念や理想が重要となる。柱本氏は自身の活動理念として「伝統的な真宗寺院の在り方」「伝統的な法座の形式を遵守する」「門信徒にとって、社会にとってを考える」等を掲げられた。

また、寺院活動を行う中で、社会の変化にも対応する必要があると柱本氏は述べる。昨今の「イエ」・「ムラ」といったコミュニティの減少により宗教も「イエ」から「個人」のものへと変化している。すなわち、「うちの宗教は◯◯宗」だからという関係性で菩提寺や所属寺院と付き合う時代ではなくなってきており、消費社会の中で葬儀や住職も商品として「個人」が「選択」する時代へと変遷しようとしているのである。柱本氏はだからこそ、個人との関係性や僧侶としての専門性を維持することも大切であると述べ、同時に寺院は地域のNPOなどと協同し地域を盛り上げていくという役割も重要であるとし、講義を締め括った。

その後、質疑応答が行われ、受講生との闊達な意見交換が交わされた。以下に質疑やコメントの内容を要約して示す。

・寺院がサードプレイスとして機能しているのが素晴らしい。

・料金をいただくことはあるのか?→料金を一切とらずに寺院を開放している。

・イベントを通して新規の門徒になる人はいるのか?→実際は分からない。友達を仲介して新たなつながりが増える。寺院を地域の方々の居場所として開放することが願いである。

記念写真

(PD西村慶哉)