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仏教者の社会活動と協議―仏教福祉の歴史からの一考察―

2022.07.21

講  師:柱本惇氏(あそかビハーラ病院ビハーラ僧・本願寺派布教使)
開催日時:2022年5月17日(火)15:15~16:45
場  所:龍谷大学大宮キャンパス北黌101(一部オンライン)
主  催:龍谷大学世界仏教文化研究センター応用研究部門
     人間・科学・宗教オープン・リサーチ・センター(CHSR)
参加人数:11名

【開催概要】

【発表】
あそかビハーラ病院ビハーラ僧、また本願寺派布教使でもある柱本惇氏をお迎えし、「仏教者の社会活動と教義―仏教福祉の歴史―」というテーマでお話をいただいた。

氏は、今日の仏教者の社会活動が注目されている一方で、教団内外に社会活動の意義を説明すること、社会活動に対する教義的位置づけを行う必要性を主張される。

そこで今回の発表では、特に仏教福祉の視点から、仏教者の社会活動を取り上げられた。

はじめに、日本仏教社会福祉学会編の『仏教社会福祉辞典』(法蔵館、2006)によりながら、仏教福祉と仏教社会福祉の概念が異なることを指摘され、仏教社会福祉の領域では主体的契機がポイントであることを提示された。これについて、考橋正一氏の、「仏教者の社会実践では、教義はあくまで主体的契機に留める重要性」、西光義敞氏の、「単純に慈悲や菩薩業を主体的契機として据えることにためらいを感じる」という先行研究の立場を紹介された。

以上のような議論を踏まえながら仏教福祉の歴史として聖徳太子をあげ、仏教教義と主体的契機について続けられた。

聖徳太子の慈善事業の側面は四天王寺四箇院の施設などが考えられ、ここをもって、社会福祉の先駆け捉えられている。一方で、上田千秋氏・田中卓氏が、仏教者の聖徳太子信仰を批判的に考察していることを紹介される。それを受け、社会福祉領域から見れば、古代の社会事業を担ったのは太子の他、行基、空海、最澄などの名もあり、仏教者が担っていた史実は揺るがないことを指摘された。そして、仏教者が社会的営みに関与したということを前提とし、主体と対象領域を議論の俎上に乗せることで初めて実践的意義が生まれることを話された。

次に氏は、仏教者が仏教者として社会に出ることは、仏教者として求められていることがあるのではないかと投げかけた。ここでは、聖徳太子の「世間虚仮唯仏是真」をキーワードに、仏教的な思想を軸としながら社会と関わる批判的協力関係にあることが重要であり、それを支える姿勢が仏教的価値にあると語られた。

最後に、仏教教義によって確立された、人間観・死生観・世界観・社会観を軸に対象領域と批判的に関わることが一つの結論であるとされた。また、帰納的研究の必要性を指摘し、発表を締めくくられた。

【コメント】
鍋島直樹(龍谷大学文学部)教授から、仏教が公共空間で社会事業をするときの姿勢として、仏教と社会福祉が緊張関係をもって関わり合っていくことが学びであったと感想を述べられた。

コメントの時間では、受講者と登壇者との間で、以下のような議論が交わされた。

柱本氏から、受講者に「仏教として社会へ出る意義はどこにあるのだろうか」という問いかけに、

「価値の違いを宗教者に求めており、そこに死への価値観を有している宗教者が関わる意義がある。ただし、押しつけではなく、問われたら答える。」

「御同朋・御同行(同じ時代に生きている。同じ如来の慈悲の中にある)という宗教的関係性が重要な場合もある。」

「自他不二、見るもの、聞くものすべて私との関わりにあるという仏教的視点がつながってくる。」

「宗教的価値を求めており、お寺に来られない方に届けることができる。また、話し手側が何を求めるかを決めるので、こちらは、定義する必要はないかもしれない。」

「不条理な死との直面から生じるグリーフに対してアプローチできる。地域の寺院という立場は人々をつなぐ役割を担っていける。」

などのコメントが寄せられた。柱本氏は「社会の違和感、ズレのヒントがあると思う」「QOLやQODの評価に対して疑問を投げかけていくことができる」と感想を述べられた。

児玉龍治(同文学部)教授「困ったときは、来てくれる、声をかけてくれる宗教者は暖かな存在である。“生死”の問題、特になくなって帰ってこないものに対して、心理学はまだ向き合えてない感があり、宗教者と連携をしていきたいと思いを語られた。

(執筆・文責:RA山田智敬)

                        柱本惇氏