【報告】グリーフケア講座「緩和ケア病棟におけるビハーラ僧の役割」
2025.06.24
6月17日(火)15:15より本学大宮学舎北黌106教室において、グリーフケア講座「緩和ケア病棟におけるビハーラ僧の役割」が開催された。講師の渡辺有氏は本願寺派布教使であるとともに、ビハーラ僧としてもあそかビハーラ病院に従事している。本講演も当病院での経験を中心に、ビハーラ活動について話された。

最初に鍋島直樹先生による趣旨説明ののち、渡辺氏による講演が行われた。
ビハーラ活動とは、狭義では「仏教を基盤とした終末期医療およびその施設」、広義では「老病死を対象とした医療、社会福祉領域での、仏教者による活動およびその施設」、最広義では「災害援助、青少年育成、文化事業など、「いのち」を支える、また「いのち」についての思索の機会を提供する仏教者を主体とした社会活動」と定義される。このように、非常に幅広い解釈をすることができる。
では、なぜビハーラ活動を行う目的は何であろうか。他を例にとって考えてみよう。

たとえば医学という理論を実践(手段)するのが医療であり、その目的は「生きる」ことだが、目的と手段がしばしば混同されることがあると渡辺氏はいう。ビハーラも同じく、真宗学という理論を実践するのがビハーラであるが、その目的は「生きる」こと、そしてそれを支えることである。「ビハーラ」自体が目的となってしまってならない。この考え方が実践の場において非常に気をつけなければならない点であるという。
あそかビハーラ病院は2008年に「あそかビハーラクリニック」として開設された。その後、変遷を経て現在は「日伸会ビハーラ医療福祉機構」として運営されている。あそかビハーラ病院は末期のがん患者だけが入院する、独立型緩和ケア病院である。その病の痛みを緩和しながら、最期のときまで生き切ってもらうようサポートするのが「緩和ケア」である。そのケアを行うためにあそかビハーラ病院では多種多様な職種が協働している。医師、看護師はもとより薬剤師、メディカルソーシャルワーカー、そして僧侶などである。
緩和ケアは、WHOによって以下のように定義されている。
緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。
しかし、この定義も先述のとおり、手段と目的が混同しているようにも解釈しうる危険性があると渡辺氏は指摘する。如上、苦痛を和らげることを目的にしてはならない。また、一言に「苦痛」といってもさまざまな「苦痛」がある。「身体的」「精神的」など定義として分けることは可能だが、それらを明確に分けることは難しい。ゆえにさまざまな職種が協働し、「苦痛」を和らげるサポートを行う必要があるのである。あそかビハーラ病院では、定例的に多職種カンファレンスを行い、患者や家族がいかに過ごしたいかを重視しつつケアの方法を日々模索している。

さて、あそかビハーラ病院における僧侶の役割は、A.宗教的ケア・B.スピリチュアルケア・C.スタッフケアに大別される。病状説明会に同席したり、お別れ会をおこなったり、環境整備として庭の木うぃ剪定することも僧侶の役割である。その中で患者さんが何気なく発した「僧侶さんは痒いところに手が届く存在だね」との言葉が印象的だったという。痒いところに手が届くというのは、どこに痒いところがあるのか、全体を常に細かく見渡す苦労もあると渡辺氏はいう。また、これらの役割において僧侶の基本的なスタンスは、①信者獲得を目的としない、②自身の宗教を押し付けない、③相手の宗教(価値観)を尊重する、④主語を相手におく、だという。目立つ存在ではなく、必要なときに側にいてもらえるとありがたい「屑籠」のような存在であることが理想である。
最後に渡辺氏は、先述のケアなか、A.宗教的ケア・B.スピリチュアルケアについて詳述された。これは患者や家族の要望に応じて、宗教的資源を用いてケアを行うことである。この「宗教的資源」とは、念珠や法衣だけでなく、法衣を着ている者自身やその環境も「資源」であるという。あそかビハーラ病院でいえば、朝夕の礼拝も「宗教的資源」である。
次に「スピリチュアルケア」とは何か。そもそもスピリチュアリティの原語は「霊性」「魂」「息」「いのち」であり、それらを支えるケアこそがスピリチュアルケアということができる。渡辺氏は、「自覚の有無にかかわらず、たしかに私のいのちを支えているものを支えること」と解釈する。人によって自身を支えるものはさままざである。スピリチュアルケアは「する」のではなく、「なる」ものではないか。私がケアをしようと思ってするのではなく、患者の気持ちを考えて行動しているうちに気づけば支えになっているというのも、スピリチュアルケアのあり方の一つではないだろうかと、渡辺氏は自身の経験を踏まえつつ述べられた。
講演の後、受講生による質疑応答が行われた。以下に概略して記す。
Q.ビハーラ活動の中で、一番気をつけている部分はなにか?
A.実習生は勝手なことをしないこと。渡辺氏は傷つけないことを大事にしている。
Q.臨床宗教師のモラルとして布教活動はしてもいいのか
A.求めてない人にはしない。何をもって布教活動とするかも難しい問題。
Q.失敗談はあるか
A.何が成功で、何が失敗か難しい。何気ない言葉が患者を傷つけていたかもしれないし、支えていたかもしれない。
Q.転院前や転移後すぐに亡くられた方がいた場合、遺族へのケアおこなうのか。
A.転院前に亡くなることは珍しいケースではない。転院できなかった場合は全くケアはできていない。これはあそかに限ったことではなく、日本全体において取り組むべき課題かもしれない。入院してすぐに亡くなった方については他の患者と同じようにグリーフケアを行なっている。その他、個人的に遺族会を開催している。
