Center for Humanities, Science and Religion (CHSR)

人間・科学・宗教オープン・リサーチ・センター

【報告】Buddhism and Crisis Care Symposium

2023.07.20

開催日時:2023年7月12日(水) 11:00~12:30

開催場所:龍谷大学大宮学舎東黌203教室

主催:日本学術振興会科学研究費基金 特別研究員奨励費「臨床宗教師のケアー現代日本の仏教チャプレンとスピリチュアルケア運動」(23KF0071)

協力:世界仏教文化研究センター応用研究部門、人間・科学・宗教オープン・リサーチ・センター(CHSR)、大学院実践真宗学研究科「真宗教義学研究」

【概要】

Nathaniel Michon氏(Ph.D. 日本学術振興会外国人特別研究員)の『Refuge in the Storm』出版を記念して公開シンポジウムが実施された。Michon氏の基調講演に加え、ゲストスピーカーに谷山洋三氏(東北大学文学研究科教授)、レスポンスには鍋島直樹氏(龍谷大学文学部教授)を迎えての開催となった。

Michon氏からは、人間が直面する様々な危機(=Storm、嵐)のなかで、仏教者はどのようなケアを行いうるのか、心の拠り所となれるのか(=Refuge、帰依)という内容が語られた。そのなかで紹介された「応急スピリチュアルケア」は、非常に実践的な知見であった。応急スピリチュアルケアとは急性ストレスに対して使用される危機介入テクニックであり、5つのステップ(①安定化と導入、②認めること、③理解の促進、④適応的コーピング、⑤必要に応じて他者へ紹介)によって行われる。まさに理論と実践の両面からケアについて考える視座を提示していただいた。

左から鍋島直樹氏、Nathaniel Michon氏、谷山洋三氏

谷山氏からは「心の相談室」の活動と、臨床宗教師の誕生や、臨床現場における祈りの意義についてお話しいただいた。東日本大震災の後、弔いとグリーフケアを目的として、宗教者たちによる「心の相談室」が編成された。「心の相談室」は宗派・宗教を超えた連携や、医療・福祉・心理の専門家との協力を理念としている。なぜなら「心の相談室」は信仰を押しつけるような組織ではなく、あくまで「ケアの実践」であり、「倫理の場」として機能することが重要だからだと谷山氏は語る。そうような指針が「公共空間で心のケアをする宗教者」というあり方にも引き継がれ、臨床宗教師の誕生へと向かっていったのである。

鍋島氏のレスポンスは、スピリチュアルケアと宗教的ケアという内容であった。氏は宗教的ケアについて、「相手の価値観、人生観、宗教性を尊重しながら、相手の希望に応じて、死を超えた宗教的真実を指し示すことである。その意味で、宗教的ケアとは、宗教者が相手と共に、教えの意味を分かち合う”Sharing”と言う姿勢である」(鍋島直樹『親鸞の死生観とビハーラ活動の理念と実践の融合的研究』下巻、永田文昌堂、2023年、273頁)と示している。鍋島氏はこれまで実際に行ってきた九州・熊本大震災支援の事例を紹介し、宗教的ケアは苦悩をなくすことではなく、苦悩があっても生きられるようにする実践だと語った。

参加者たちからは「祈りやRefugeの意味について考える機会となった」「臨床宗教師が実際どのような活動をしているのか、何を大切にしているのか知ることができた」などといった感想が寄せられた。慈しみを持って自己と他者に寄り添うことの大切さを、あらためて共有する時間となった。

記念写真